高断熱だからできる、クーラーいらずの涼しい家 その1

先月の勉強会のまとめです
学習したことをそのままにすると忘れてしまいます。
復習のつもりでレポートします。
テキストの内容が専門的なのでわかりにくいかもしれませんが、たいへん良い資料です。
すこしでも、住宅の性能の大切さが理解できたらいいですね。
講師 室蘭工業大学教授 鎌田紀彦先生 
新住協のテキストより
暑い日本に、暑い家、それ
とも涼しい家?


昔の家のほうが涼しかった
 最近の家は、暑くなったと感じる人が多いのではないでしょうか。「地球温暖化のせいか、カラ梅雨だったり、7月が猛烈な暑さになったり、9月の残暑が長引いたりという異常気象だけのせいではないぞ。住宅の気密化が進んだせいではないか」とか、「高断熱・高気密住宅は、冬は暖かくて快適だが、夏は暑くて大変だそうだ」といった声を聞くことがあります。果たしてそうでしょうか。
 私が、高断熱・高気密住宅を提案し、次第に南の方に広まるにつれて、「日本は、高温多湿の風土で、家づくりは夏を旨とすべし。気密住宅などとはとんでもない」という声が、建築の研究者、設計者から多くあがりました。もっともそういう人は、高断熱住宅を建てたこともなければ、もちろん住んだこともない人たちでしたが。しかし、普通の住宅よりも、とてつもなく暑い家が、高断熱住宅の中には存在したことも事実でした。一方では、とても涼しくてクーラーはほとんど使わないという家もあったのです。
 そこで、私たちは、高断熱住宅を涼しく建てるにはどうすればよいかを研究すべく、関東で一番暑い、高崎周辺の住宅の調査を始めたのが、10年ほど前のことです。北海道に住む私たちにとって、なかなか難しいことでしたが、温度データや風速計、熱画像カメラなどを使ってデータを集め、住んでいる人の話をいろいろと伺いました。その結果わかったことは、高断熱住宅だから暑いのではなく、近年の日本の住宅が暑い住宅になっているということ。そして、高断熱住宅では、それが顕著に表れる場合があるということでした。
夏を旨として、どんな家をつくったらよいのですか?
 高気密住宅なんてとんでもないという人たちに、私は反論しました。
「本州の暑い地域の住宅でも、家を閉め切って冬は暖房し、夏は冷房をしますよ。そして断熱材を住宅には必ず入れている。その断熱材をきちんと効くようにする。断熱材のせいで木材が腐らないようにする。そして不要なすきま風は防ぐ。そのような住宅本体をつくろうというのが、高断熱住宅の意図です。
夏の暑さを防ぐいろいろな工夫を否定するつもりもないし、北海道ではあまり見かけない、広い縁側に大きな開口部のある本州の住宅でも、高断熱化でとても快適になるはずですよ。ところで、あなた方は、夏の暑さを防ぐために、夏を旨としてどんな家づくりをしているのですか。守るべき設計手法はなんですか。」
 この問いに対して、答えは、「通風を考えて、各部屋の窓を2〜3方向に設置する」ということくらいしか返ってきませんでした。私たちは、調査の結果いろいろなことがわかってきていましたが、もう一度聞きました。
「熱帯夜のとても暑い日は、外の風もなく、それで部屋の中の通風が取れるのですか。大体、2階の寝室で寝ているときに、1階には、開け放しにできる窓がついているのですか」。
 このあたりに、近年の日本の住宅は暑い造りになっているという問題があるのです。
昔の家は、夏になると嵐にならない限り、夏中開け放しの窓がいくつもありました。今ほど物騒ではなかったので、1階の縁側の窓さえ、開け放しで寝る家も多かったのではないでしょうか。
家の中の温度は、夜になると外より高いのです。温度の高い空気は軽いので、2階の窓から抜けます。その分1階の窓から外の涼しい空気が入ってきて、外ではほとんど無風状態でも、家の中には風が起こるのです。
通風は部屋の2方向の窓で生じるのではなく、1階から2階へ通風するのです。しかもそのためには、夜中窓を開け放しにする必要があります。突然の雨や風、泥棒にも安心して開け放しにできる窓は、最近の住宅には付いていません。デザインやコスト優先で昔からの窓が無くなってしまったのです。
昔の民家は、住宅のてっぺんに必ず通気用の開口がありました。1階の窓は全部開け放しです。夜中住宅が冷やされるので、翌日の午前中は家の中はとても涼しかったのです。
住宅の中はどうして暑くなるのか
 高断熱住宅は、一般住宅より熱が逃げにくくなっています。住宅の中では、私たち人間が熱を出します(1人あたり100Wの電球と同じ)。住宅の中で電気を使うと、それはすべて熱になります。窓から入ってくる日射もあります。
冬は、これらの熱で住宅内の温度は、暖房しなくても外より5℃以上高くなります。Q1.0住宅では、10℃も高くなる家もあります。足りない分を、暖房で補っているのです。暖房エネルギーを少なくするには、これら室内で生ずる熱をうまく利用しようというのが、Q1.0住宅のポイントです。
 夏は、これらの内部の熱は、すべて住宅を暑くしてしまうわけです。住宅内をクーラーで冷やそうとすると、これらの熱をまず冷やす必要があります。この熱は、夏も外気より室内を5〜10℃も上げてしまします。外気温は、暑い日は一日の平均で30℃近くになります。住宅を閉め切ってしまうと、住宅内の温度は40℃にも達することになります。日射が入ってくる日中は40℃を超える可能性すらあります。
 一方、冬の住宅内の温度は15〜25℃ぐらいで変動します。人間はこの中で比較的快適に過ごすことができます。厚着したり、こたつに入ったり、寝るときは布団をかけますから、15℃でもそんなに寒くないのです。日射が入って25℃ぐらいなら、セーターを一枚脱ぐだけで十分です。
ところが夏は大変です。とても暑い30℃から、さらに温度が上がるのです。もともと薄着していますから、これ以上脱ぐこともできない。風でも吹いてくれれば、少ししのぎやすくなるのに、家の中は、窓を開けても風がそよともしない。冬は1℃の温度差はあまり問題にはならないのが、夏は1℃の温度差は入内です。
それでも、夏は冬と違って窓を開けて住宅内の熱をそとに排出できるはずなのですが、ちょっとした外出や、夜の就寝時に開け放しできる窓がないのです。こうした設計がまかり通っているのが、日本の住宅ではないでしょうか。
高断熱住宅は、まだしも外の熱を断熱材が遮ってくれます。夏は、屋根瓦や外壁サイディングが日射で60〜70℃ぐらいにもなります。断熱材の少ない家は、日射以外にもこれらの熱が入ってきます。家にこもった熱と、屋根、壁材から入ってくる熱で住宅の2階は特に暑くなります。
 図1は、10年前の調査の時のデータです。午前中にもかかわらず、外壁の温度は60℃近くもあります。
 図2は、一般住宅の2階和室の壁と天井の温度を示します。断熱材がほとんど入っていないせいか、外壁の室内側で39〜40℃あり、天井に至っては45℃ぐらいありました。これは、灼熱地獄です。高断熱住宅の測定もしたのですが、実は、こうした住宅とあまり違わない住宅も多くあったのです。
 図3は、2階の子供室の壁と天井の温度です。壁の温度が36〜38℃、天井は38℃でほぼ均一。相当な暑さです。しかし天井と壁の温度があまり変わらないことから、断熱材が効いていることがわかります。住宅全体の暑い空気が2階にたまって、室内側から壁天井を暖めている結果なのです。住宅の窓がほとんど閉まっていて、痛風によって排熱されない結果、暑くなっているわけです。

つづく