高断熱だからできる、クーラーいらずの涼しい家 その2

窓から日射を、極力遮蔽する
どうしたら、昔の家のように涼しい家ができるのでしょうか。しかも、できるだけクーラーを使わないで涼しく過ごせれば言うことはありません。


     
 まず、住宅内の温度を上げる原因となる、住宅内に生ずる熱を極力少なくすることです。といっても、人間は熱を出すし、電気を使わないわけにはいきませんから、結局、窓から入る日射の熱を極力遮蔽することが大事です。窓からの日射を遮ろうとすると、思い浮かぶのは、白いレースのカーテンやブラインドなどですが、これらはガラスの室内側に設置するため、あまり効きが良くないのです。
 表1に、ガラスの種類別に、いろいろな日よけ部材の日射侵入率をまとめました。レースのカーテンや内付けブラインドでは、太陽熱の40〜50%も入ってきてしまいます。LOW-E遮熱ペアガラスならば30%しか入りませんが、冬の太陽熱も入ってきませんから、南の大きな窓には使いたくありません。これに対して外付けブラインドは10〜20%しか入らないことから、やはり、ガラスの外側で日除けすることが大事だということがわかります。100%遮ろうとすると家の中が真っ暗になってしまします。 

 図4は、居間や和室の掃き出しの大きな窓の日射を遮蔽する方法をまとめたものです。昔の家は、真南向きに建てられ、庇を深くして日射を遮っていました。最近の住宅は、宅地が狭く、そのため南西、南東向きになっている場合が多くなっています。これでは全く庇は効きません。南向きでも、8月後半から9月にかけては、太陽高度が下がり、普通の庇では効きにくくなります。その日除けとして、昔からA・Bのように葦簀(よしず)やすだれを使ってきました。昔は、家には必ず誰かがいて、風が吹いてくれば巻き上げることができたのですが、現代の住宅では難しいことです。C・Dのように、簡単な押さえがあれば多少安心です。しかしこれらの方法は、夜、窓を開け放して2階で寝るにはちょっと不用心です。Eの方法は、雨戸も木製のがらり戸にして、西日も避け、通風もとれるように工夫したものです。このような」市販品はありませんから、大工さんがつくらなければいけません。しかし、雨戸で戸締まりできるようにすれば、夜中も開け放しにできます。
 

 いくつかの実例を紹介します。図5と図6は私の研究室で、学生が試作したものですが、中国製すだれとすだれ巻き上げ器、若干の木材と竹で、総工費1000円で出来た日除けです。すだれは1年しか持ちませんが、通風もとれてきわめて有効です。
 

 図7は、プレファブメーカーのQ1.0住宅です。南の大きな窓に、夏対策として、外付けブラインドを付けた例です。この窓は大きな外開き窓ですから、窓を開けた状態でこのブラインドは下ろせません。ブラインドの上げ下ろしは、外からすることになります。引き違い窓ならこんなことにはなりません。
 
 図8は、南側に、ガラス屋根付きのサンデッキを設け、日除けカーテンを設置した例です。こんな建築的手法でうまくやるとスマートです。 
 

 
 図9は窓用オーニングですが、この写真のように庇状に出すこともできますが、全部下ろすと窓を全部覆うこともできます。この写真の状態なら、かろうじて外開き窓でも設置できます。上げ下ろしが、室内にロープを貫通させて、室内でできるところがみそです。
 

 図10は、冬に断熱ブラインドとして、Q1.0住宅では、積極的に採用している部品ですが、断熱性が良いため、室内側に設置しても高い日射遮蔽率が期待できます。唯一、内付けブラインドでおすすめできそうです。
 

 以上のように、どれをとっても一長一短というところでなかなかうまくいきません。私が一番期待しているのが、図11と図12のブラインド内蔵サッシです。図は、今年から本格的に販売を始めた、アメリカ製の木製サッシです。ガラスの間にブラインドを内蔵しています。
 

図10と同じ考えの断熱ブラインドを内蔵するものと2種類が販売されています。写真は外開き戸ですが、引き違いもあり、しかも、夜は少し開けたところで戸締まりができるように工夫されています。このブラインド内蔵サッシという考え方を、私は5年前から、日本のメーカーやサッシメーカーと試作に取り組んでいるのですが、日本の常識から大部かけ離れているせいか、未だに実現していません。ブラインドを内蔵すると、ブラインドが汚れないで掃除する手間が省けます。日射侵入率も20〜30%と高く、断熱ブラインドを入れたタイプは断熱性も超高性能です。この良さが認識されて、日本でもつくられ始めることと期待しています。
 

 最後に、日射遮蔽で注意すべきことは、出窓はつくらないほうがよいということです。たいていの出窓には庇がありません。外の日除けもきわめて設置しにくく、夏は、ソーラーコレクターになってしまいます。設置するなら、東から北面に設置することです。または、この右図のように窓の前にカウンターを設置すれば、室内からは出窓と
同じことになります。
 

 夜間の排熱・通風換気で涼しい家が出来る
 日射を極力遮っても、20%くらいの熱は入ってきます。また、室内の照明器具や冷蔵庫、テレビなどの熱も結構大きいものです。これらの熱で室内の空気は暑くなり、それが、壁や天井の石膏ボードに蓄熱されていきます。
特に2階の部屋に暑い空気が上り、それが天井付近にたまり、天井を熱くします。窓を開けて通風をはかっても、日中の熱い空気は35℃以上になることもしばしばです。こうして日中家の中は暑くなっていきます。
しかし、夕方から夜中、そして早朝にかけては、外気温も下がってきます。熱帯夜は、朝方の最低気温が25℃以上の日ですが、それでも外は大部しのぎやすくなります。風がほとんど無いといっても、外に出ると多少風はあり、それが体感温度を下げてくれるのです。
しかし、家の中は、まさに熱帯です。30数℃はあり、クーラーをかけずにはいられません。窓を開けても、風がないのですから、ほとんど風は入ってきません。窓を部屋の2方向に開けても、これではお手上げです。通風は、このようなときは平面的には起きません。しかし、家の中の空気が、外より温度が高く、軽いということは、住宅の上下に窓を開ければ、上昇気流が発生するということです。つまり、住宅が風を創り出すのです。
 わずかな外風の風上に低い窓、風下に高い窓を設ければ、外風も利用して、より効果的に風を起こします。平面的な通風しか考えていないと、室内にわずかな風しか通らないばかりか、部屋の上部には、暑い空気が滞留しますから天井は熱いままで、天井からの赤外線を浴びて、とても涼しくはなりません。
部屋の窓やドアは、高さが2mにそろっています・天井高は2.4mですから丁度40?の弁当箱をかぶせたようになり、そこに暑い空気がたまるわけです。図14のaのような状態です。住宅をb〜eのように計画しましょう。
日本の昔の民家の知恵を、現代の高断熱住宅に復活させるのです。住宅全体で、上下にそれぞれ1?の窓が開いていたとします。外の風速が0.5m/s、室内で温度差による上昇気流が1m/s起こったとすると、合わせて1.5m/sの風が流れます。そうすると、1時間に5400?の空気です。台所のレンジフードが600?/hですから、その9倍の空気が自然に流れるわけです。莫大な量です。
 このようにして、住宅を朝まで冷やすことができます。昔の家は自然にこうなっていたのです。しかも住宅中の土壁が冷えれば、なかなか暑くならずにすむわけです。現代の住宅には熱容量の大きな土壁はありませんが、住宅内の熱容量は、施工ボードや家具などを合わせると相当なものです。昔の民家と違って現代の住宅は、厚い断熱で守ることができますから、朝になって外気温が上昇する前に窓を閉めて、浅野涼しさを保つようにすればよいわけです。
 図15はこのようにして涼しく暮らしている盛岡の住宅の温度グラフです。もう10年近く前のものです。朝方までに1階の居間の温度は、28℃まで下がっています。日中は、外気温の上昇によりゆっくりと室温が上昇していき、室内は外より涼しい状態が続きます。夕方6時頃、外気温が下がり、室内と同じになります。その後、窓を開けて通風換気を始めます。この家は、図14のb・cのような工夫はしていない、普通の家です。2階は、やはりちょっと暑い空気が集まりますから、日中、多少窓を開けて2階の排熱換気をしたほうがよいようです。この住宅で、もう少し夜間の換気量を増やす工夫をすればよいということがわかったわけです。
 

常時開放できる窓が必要
 夜間の、排熱・通風換気をするには、安心して開け放しができる窓が必要です。こうした窓が、現代の日本の住宅から消えてしまったのです。 
 昔の家は、南の居間の掃き出し窓の上には、欄間窓がついていました。この窓は、夏になると開け放しでした。この窓は、今の住宅にはほとんど使われません。
その代わり、高さ2mのちょっと高さのある掃き出し窓が付くだけです。理由は、コストが安く大工手間が少ない。デザインがすっきりするということでしょうか。
気候風土から必要だったものがなくなってしまったわけです。トイレや風呂場、台所などの小窓は、上部に霧よけ庇が付いて、防犯のため面格子が外側に設置されていました。この窓も、夏になるとほとんど開け放しだったのです。
しかし、今では外開きやすべり出し窓が使われます。これも、コストとデザインからのことと思います。こうした小窓は、開け放しだと、雨が吹き込んだり、強い風で壊れたりします。外に開くために、防犯のための面格子は付けることが不可能です。かくして、日本の住宅はとても暑い住宅となりはて、クーラーがすべての部屋でうなりを上げることになったわけです。豊かな社会(?)の実現です。
 現代でも、開け放しにできる窓は存在します。図16に示す、内開き・内倒し窓やストッパー付きのすべり出し窓がそうです。図17は、内開き・内倒し窓(ドレーキップ窓とか、ティルトターン窓といいます)の写真です。図18は市販されていませんが、特殊なストッパーで外からは開かないように工夫されたすべり出し窓です。メーカーには早く市販するようお願いしているのですが、売れる見込みがつかないようです。
 Q1.0住宅で、窓の熱性能を上げる切り札となっている、スウェーデン製の3重ガラス窓も、やはり特殊な金物で、外からは開かないすべり出し窓です。(図19)。この窓は、180度回転して、ガラスの外側が室内で掃除できるようになっています。上部に付ける換気用の窓は、高ければ高いほどよいのですが、高いと手が届きません。図20のような、電動開閉窓もあります。日本の住宅を涼しくするためには、このような窓が必要だという認識が広がれば、サッシメーカーもハウスメーカーも真剣に取り組んでくれると思うのですが、現在のところはいつも設計でくろうするところです。
 

 

基礎断熱の床下の涼しさを生かす
 このようにして、高断熱住宅は、普通の住宅よりも遙かに涼しい家にすることができることがわかりました。しかし、日本の夏は厳しいものがあります。やはりちょっと暑い。しかしそれなら、クーラーをちょっと付ければよいのです。クーラーの効きが違います。大きな吹き抜けのある家なら、2階のホールにクーラーを1台設置すれば十分という家も出来ています。
 もうちょっと冷やす工夫はないものか。10年前の調査で私たちは、基礎断熱をした床下の涼しさに目を付けました。夏の暑い時期で、関東で床下の土間コンクリートの表面温度は25℃でした。同じ夏、盛岡では24℃、室蘭で23℃だったのです。日中の住宅内の排熱をする時、床下の涼しい空気を供給してやれば、多少住宅内の日中の温度上昇を抑えられるのではないか。そうすると、床下のコンクリートの温度が高くなるので、夜の間に外気でまた冷やしておこう。こんな考えを図面にしたのが図21です。
この図では、床下に換気扇を入れて空気を送っていますが、基礎断熱換気口を開けておけば、自然に空気は流れるようです。床下に空気が流れると、1階の床表面温度が1〜2℃下がることもわかりました。1階はとても快適になります。夏は、1〜2℃の差がとても大きいのです。
このことから、私たちは、本州の住宅には基礎断熱で、夏は換気口を開ける、そして、床には適当なところに開口部を設け、床下の空気が室内に出てくるように設計することにしています。冬は、その開口の下に暖房機器を設置して、床下暖房を行います。
 

涼しい家を当たり前に建てよう
 私たちは、このようにして、高断熱住宅を日本で涼しい家として建てていくための、ノウハウを積み上げてきました。思えば、私のいる室蘭は、夏の最高気温が30℃を超えるかどうかという土地です。高崎の新幹線のホームで、40℃の熱風状態では風が吹くと逆に暑いということも体験しました。暑い地域に住む人が、こうした研究をするべきだと言っていました。しかし、そのような気配はありません。
 夏の涼しさをうたった怪しげなシステムやフランチャイズが、いかに多いことか。フランチャイズや特定の何とか工法ではなく、ごく普通に涼しい家をつくっていかなければならないのです。これからの住宅は高断熱で省エネ、快適でなければなりません。夏はすべての家を涼しく建てなければなりません。
 10年前の調査をした時の高崎の工務店は、今では、この涼しい家の構えを標準仕様として建ててます。図22は、桐生に彼が建てた小さな老夫婦の家です。クーラーはついているが、ほとんど使わない。
とても暑い北関東で大きな一歩が刻まれています。東北から関東、そして西日本、暑さの質、状況は地域によって大きく変わります。さらにノウハウの積み上げが必要でしょう。何よりも涼しい家を構成する住宅部品がメーカーから供給されなければ、なかなかすべての家を涼しくということは難しいと思います。今は、手づくりで涼しい家をつくるしかありません。しかし同時にそれは、創ることができるのです。
 

つづく